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東京地方裁判所 昭和28年(モ)9803号 判決 1955年4月15日

債権者 有限会社マルケイロートヂアス錠本舗

債務者 マルケイ製薬株式会社

主文

債権者債務者間の当庁昭和二十八年(ヨ)第五四九二号商標使用禁止等仮処分申請事件について、当裁判所が昭和二十八年八月七日なした仮処分決定は、これを認可する。

訴訟費用は、債務者の負担とする。

事実

第一、債権者の主張

一、申立の趣旨

主文第一項同旨の判決を求める。

二、申立の理由

訴外神島化学工業株式会社は、登録番号第三七八、八八四号(昭和二十二年十月八日出願、昭和二十四年三月二十五日公告、同年十月八日登録、指定商品第一類化学品薬剤及び医療補助品)による別紙目録第一記載の商標権を有するところ、債権者は、同訴外会社から、昭和二十八年二月二十日右商標権のうち指定商品錠薬及びその類似品に対する商標権(以下本件商標権という)を、更に同年七月三十日にはこの錠薬等を除く爾余の薬剤全部に対する商標権をその営業と共に、同訴外会社において将来右商標をもちい錠薬、薬剤に関する営業が行わないとの確約を得たうえ、分割譲渡を受け、同年七月十六日及び同年十一月二十八日、それぞれ、その旨の登録を了し、同年三月頃以来これをもちいて薬剤の製造販売をなしている。ところが、債務者は肩書地においてマルケイ、マルケイロートヂアス錠、マルケイホミカロート錠なる文字を表わした商標を附して錠薬を製造販売し、かつ右商標を附した錠剤商品及び類似商品に使用する印刷物、薬壜等を現に占有所有している。この債務者使用にかかる商標(ロートヂアス錠、ホミカロート錠は商品の普通名称)は、債権者の前記商標と類似するものであり、債務者が右商標を使用して錠薬の製造販売等をなすことは、債権者の本件商標権を侵害するものであるから、債権者は、債務者に対しその使用差止等を訴求中であるが、今直ちにこれに必要な措置を講じておかないときは、回復し難い著しい損害(従来債権者は、本件商標を附した百錠入のロートヂアス錠及びホミカロート錠を一ケ月約三万本製造販売していたところ、これが債務者の右侵害行為により五千本程度に減少したため、一本につき利益十五万円として、少くとも一ケ月合計三十七万五千円の損失となる)を蒙り、また営業上の信用を害せられるにいたつているので、これが保全のため仮処分の申請をなし、主文第一項掲記の『債務者は、別紙目録(第二)表示の商標を錠剤薬品及びその類似品並びに営業用の印刷物、薬壜、印鑑に使用し、またはこれを使用した錠剤薬品及びその類似商品を販売してはならない。債務者が、現に占有する別紙目録(第二)表示の「マルケイ」なる商標を附した錠剤商品及び類似商品に使用する印刷物、薬壜等は、債権者の委任する東京地方裁判執行吏にその保管を命ずる。』との仮処分決定を得た。この決定は至当であつて、なお維持の必要があるので、その認可を求める。

第二、債務者の答弁

一、主文第一項掲記の仮処分決定の取消並びに申請却下の判決を求める。

二、債権者主張の事実中、訴外神島化学工業株式会社が債権者主張のような商標権を有すること、債務者が債権者主張の如き錠薬を製造販売し、昭和二十三年十二月以来これにその主張の如き標章を使用していること、債権者がその主張のような仮処分決定を得、その執行をなしたことは、これを認めるが、その余の点は、すべて争う。

(一)、債権者は、本件商標権を訴外神島化学工業株式会社から譲り受けたというけれども、債権者において専ら債務者に対する不正競争のために本件商標権を譲り受けたものであるから、その譲渡行為は、民法第九十条により無効である。すなわち、債権者会社は、昭和二十七年十月債務者会社の取締役遠藤恵也により、債務者会社と同一の本店所在地に、類似の商号をもつて設立され、同人がその代表取締役に就任し、ただ債務者会社の営業を妨害する目的で、右訴外会社から本件商標権を譲り受け、品質の点を除くほかは、全く債務者会社の製薬と同一の製品を造り、これに本件係争にかかる債務者の標章等を附して販売し、不正競業をなすにいたつたものである。もつとも、その後、債権者会社の代表取締役は遠藤恵也からその妻遠藤フミエ(竹内文子)にかわつている。なお、右恵也その頃債務者会社使用中の工場を実力をもつて占拠し、債務者会社の運営やこれに出入する者に対し、実力により妨害をなし、更に包装、意匠、商標の全く同じ前記の如き製品を売捌こうしたが、品質の相違と債務者永年の取引関係の存在のため問題とならなかつたので、そのいわゆる譲受の前後を通じ一度も使用されたことのない本件商標を取得したと称し、債務者の営業を妨害せんとしているのである。

(二)、もともと、商標権は、その営業と共にのみ譲渡されうるものであり、その営業については、当該商標の使用せられる営業の得意の認められる範囲において営業財産の移転を要し、具体的営業財産のない場合でも、少くとも商標権の対象となつている商品に関する営業経営者たる地位が同時に移転されなければならないところ、訴外神島化学工業株式会社は、その出願以来、本件商標権に係る錠薬及びその類似品の営業は、全くこれを行つたことがなく、従つて譲渡すべき営業がないから、債権者と右訴外会社との間における錠薬及びその類似品に対する本件商標権のみの譲渡が許されないこというまでもない。仮に営業の譲渡がなされたとしても、その譲渡について、右訴外会社は株主総会の議決も、また取締役会の議決さえも経ていないから、譲渡の効力は生じ得ない。

(三)、仮に、債権者がその主張の如く本件商標権を有するとしてもその商標と債務者使用の標章「マルケイ」、とは、これをその外観、称呼、観念の点より全般的に比較し、かつ本件商標権の特別顕著性がその図形的部分にあること(本件商標中「K」の文字自体については権利が要求されていない)、また債務者は、「マルケイ」やを昭和二十三年十二月以来使用しているが、なる商標は、いまだ一度も使用したことがなく、債権者においてもこれを他から直ちに認識しうるように使用したことなく、商品についてはの表示の上にことさらを表わしたシールを貼付していたものであり、しかもロートヂアス錠、ホミカロート錠については「マルケイ」、が一般取引界にひろく通つている実情などを考え併せるときは、両者は一般取引上彼此混同誤認を生ずるおそれがないから、類似ではない。

(四)、なお、債務者は、「マルケイターゼ」及び「マルケイホミツク」なる二つの商標権をいずれも昭和二十八年六月二十三日出願同年十二月十八日公告、昭和二十九年三月八日登録(登録番号第四四一、六三八号及び第四四一、六三九号)により、薬済を指定商品として有するにいたつているのであつて、債務者の係争標章の使用も、これら商標権の正当な権利行使の範囲に属するから、債権者はについての本件商標権の効力を主張して、債務者の「マルケイ」、なる標章の使用を排除することはできない。仮に「マルケイ」、の標章が本件登録商標と類似であるとすれば、同様にこの「マルケイ」、は、債務者の登録商標「マルケイターゼ」「マルケイホミツク」と類似すると考えられ、従つて、債務者の登録商標の類似商標に対する使用禁止的効力(禁止権)の範囲にも属するから、かかる場合、本件登録商標の禁止権は「マルケイ」、には及ばず、本件商標権の効力は、自体の専用権の範囲に止まるべく、従つて、債務者の「マルケイ」、の使用は、債権者の本件商標権侵害の問題をひき起す余地がない。

(五)、訴外国際製薬株式会社は、本件商標の登録出願前である昭和二十一年七月二十四日医療薬品の製造等を目的として設立され、以来東京都台東区下根岸町五十七番地所在の同会社第二工場において「マルケイ」「」の標章を善意に使用して、ロートヂアス錠その他の医薬品を製造、宣伝販売して来たものであつて、その標章は取引者または需要者間に広く認識せられていた。ところが債務者会社は、同訴外会社から右第二工場の営業、業務一切を承継して昭和二十三年十一月二日設立され、以来右訴外会社使用にかかる「マルケイ」、の標章の使用をも承継して現在にいたつているのであるから、その使用を継続することができる。

(六)、また、前記(一)乃至(三)の事実に鑑み、かつ債務者会社は、ロートヂアス錠及びホミカロート錠だけを製造しているため、本件仮処分の執行により現在全く営業停止の状態にあり、その従業員、家族等二十数名の生活が危殆に瀕していることを考え併せるときは、債務者が形式上本件商標権を有するとしても、これに基づき債務者の係争標章の使用禁止等を求めるのは、権利の濫用として許されないものというべきである。

第三、債権者の答弁

債務者主張の事実中、訴外神島化学工業株式会社が本件商標権の商品である錠薬の製造販売等の営業を現実には実施していなかつたこと、債務者がその主張の如く登録商標第四四一、六三八号同第四四一、六三九号の権利者であることは認めるが、その余の点はすべて争う。

第四、疎明

<省略>

理由

訴外神島化学工業株式会社が登録番号第三七八、八八四号(昭和二十二年十月八日出願、昭和二十四年三月二十五日公告、同年十月八日登録、指定商品第一類化学品薬剤及び医療補助品)による別紙目録第一記載の商標権を有して来たことは当事者間に争がない。ところが、債権者は、同訴外会社から、昭和二十八年二月二十日右商標権のうち錠薬及びその類似品に対する権利(本件商標権)を、更に同年七月三十日にはこの錠薬等を除く爾余の薬剤全部に対する商標権を譲り受け、その旨の登録を了したと主張し、これに対し、債務者は極力その譲受の効力を抗争しているので、先づ、この点につき判断する。

成立につき争のない甲第十、十八号証、証人遠藤恵也の証言(第一回)により真正な成立の認められる甲第九、十六、十七号証、第十九号証の一、第二十、二十二、二十三号証を綜合すれば、債権者は、右訴外会社から、昭和二十八年二月二十日錠薬及びその類似品に対する本件商標権を、更に同年七月三十日にはこの錠薬等を除く爾余の薬剤に関する商標権をそれぞれ譲り受け、同年七月十六日及び同年十一月二十八日、その旨の登録を了したことが一応認められる。しかるに、(一)債務者は、債権者が専ら債務者に対する不正競争のため本件商標権を譲り受けたものであるから、その譲受行為は民法第九十条により無効であると主張する。しかして、訴外神島化学工業株式会社において、本件商標権の譲渡をなすに際し、債務者がその主張(一)において挙示するような債権者会社が債務者会社の取締役遠藤恵也により債権者会社と同一場所に、同人を代表者として、同一種類の営業を目的とし設立されたとの事実や、債権者債務者間に相当深刻な紛争が存するとの事実などを諒知するにいたつたとしても、その際更に、債権者が専ら債務者を害すべき何等かの反社会性ある行為に出でる目的で本件商標の取引をなすべきであるとの事実、すなわち不法な動機が右訴外会社との間で表示されていた事実、少くともこのような不法な目的を主たる動機として表示し、右取引がなされたとの事実を認めるに足る疎明のない本件においては、同訴外会社と債権者との間の前示商標権譲渡行為をにわかに民法第九十条に違反し無効なりとなすことを得ないといわなければならない。

(二) 更に、債務者は、本件商標権その営業と共に譲渡されていないから、譲渡の効力を生じ得ないと主張する。しかして、本件商標権については、訴外神島化学工業株式会社がその指定商品である錠薬の製造販売等の営業を現実には実施していなかつたことは当事者間に争がない。(債権者は、昭和二十八年十一月三十日の口頭弁論期日においてこの事実を認め、その後に提出した書面においては、これに反対の主張をなすかにうかがえる節もあるが、右自白が真実に反するとの疎明は全くない。)ところで、商標権は、その営業と共にする場合に限り移転しうるものなることは、商標法第十二条第一項の定めるところであり、その法意は、商標は本来的に営業を前提とし、その附せられる特定の商品についての営業の得意を荷担するものであり、従つて商標と商品と営業とは不可分の関係にあるから、信用を得た商標がその営業と無関係に譲渡され、他の信用のない営業にかかる商品に使用されるにいたるときは、一般取引者または需要者はこれを旧営業にかかる商品と誤り、取引上の不安を生じ、商標が商品の出所の標識たる本来の目的に背馳するにいたることを防止せんとするにあると考えられる。この法意と商標法が商標の登録に際し出願人が現に営業をなしていることを要件とせず、将来自ら営業をなす意思を有すれば足りるとしていること、すなわちこうした形における営業の存在の予測が可能な範囲で登録を許容していること、商標はこれを自己の営業にかかる商品のために専用せんとする者に対してのみ登録されるが、爾後その移転が絶体に許されないというものではないことを考え併せるときは、右法条にいわゆる営業とは、商標と営業との有機的結合関係がすでに客観的事実として形成されるにいたつている場合には、商標によつて指標される指定商品に関する営業構成としての信用、設備、秘訣、得意等有形無形の財を包括すると解すべきであるが、かかる形成の成立するにいたつていない場合においては、観念的な営業または営業者たる地位ないし権利者の指定商品についての営業に関する内心の意思と解して妨げないというべきである。この後の場合、あるいは徒に営業なくして商標登録を出願しこれを転売せんとする奸商の発生をおそれるものがあるとしても、もともと商標が自己の営業にかかる商品なることを表彰するため、これを専用せんとする者に登録せられるものなること商標法第一条第一項の明定するところであり、これに反してなされた登録が無効となさるべきことも、同法第十六条第一項第一号により明かであるから、これを防止することができ、前示第十二条第一項が重ねて奸商防止の趣旨を定めたものと解する必要は少しもない。しかして、成立に争ない甲第二十一号証乙第一号証並びに弁論の全趣旨によれば、訴外神島化学工業株式会社は、前示登録第三七八、八八四号商標権の指定商品中化学品に関する営業を行つて来たものであり、なおその登録当時指定商品中錠薬等についてもその営業をなす意思があつたことをうかがうに十分であり、なお、前示甲第九、十七号証、第十九号証の一第二十二、二十三号証によれば、右訴外会社は、指定商品錠薬及びその類似品に対する本件商標権を債権者に分割譲渡するに当つては、将来錠薬等に関する営業をしないことを約しているのみならず、その後間もなく前示認定の如く、同訴外会社において製造販売等の営業をなしていたことのある薬剤(右錠薬等を除く)についての商標権をも、その営業と共に将来その営業をしないことを約して、債権者に譲渡していることが疎明せられ、以上争のない事実と認定事実並びに弁論の全趣旨を綜合すれば、同訴外会社は、本件商標権と共にその対象たる錠薬等に関する営業者たる地位を移転したものと認められるから、前示法条にいわゆる営業も移転せられたものということができ、従つて、本件商標権の前示譲渡は有効になされたものというべきである。なおこの譲渡について、債務者主張の如く、訴外神島化学工業株式会社が株主総会ないし、取締役会の議決を経ていないとしても、本件商標権が僅少の価値を有するに過ぎず、同会社において錠薬、薬剤の営業が重要なものでないことは、前示甲第十七号証及弁論の全趣旨により極めて明かであるから、前示判断の妨げとならないことはいうまでもない。

(三) 次に、債務者が債権者主張の如き錠薬を製造販売し、昭和二十三年十二月以来これにその主張の如き標章を使用していることは当事者間に争がないところ、債務者は、債権者の本件商標と債務者使用の標章「マルケイ」、とは、同一または類似ではないと主張する。ととが一般取引上通常「マルケイ」の自然的称呼を生ずべきことは先づ疑を容れる余地がない。また、なる登録商標について、「K」の文字自体に権利が要求せられていないとしても、なる一個の商標として類否を判断せらるべきこと及び取引上権利不要求の部分を含めて商標の称呼が生ずべき場合その称呼をもつて当該商標の自然的称呼というべきことも明かである。しからば、商標と「マルケイ」、の標章とは、称呼が同一であるといわなければならない。しかして、商標法が類似商標の登録を禁止し、権利者の商標の専用を認めている趣旨が取引者または需要者間において商品の出所を指標し、その誤認混同を避け、営業と営業との関係を規制し、営業の信用を保護せんとするにあり、かつ通信取引の盛に行われる取引事情及び、ことに、本件における如く指定商品が錠薬剤であり、ひろく一般需要者等を取引の対象とし、更に具体的には同一目的に使用され、同一店舗において取扱われるべきものなることなどを考え併せるときは、すでに商標が称呼において同一なる限り、その外観、観念が必ずしも同一または類似といえない場合においても、商標としては類似なりというべく、従つて、商標と「マルケイ」、の標章とは類似なりということができる。債務者は、「マルケイ」の標章は、ロートヂアス錠、ホミカロート錠については一般取引界にひろく通つているから、商標とは彼此誤認混同を生ずるおそれがないというけれども、一般取引者または需要者間におけるかかる事実を断ずるに足る程明かな疎明はない。また、債権者も「マルケイ」、の商標を錠薬に使用しており(証人遠藤恵也の第二回証言により真正な成立の認められる甲第三十乃至四十号証成立に争のない同第二十八、二十九、四十一号証により明かである。)、本件商標はこれを他から直ちに認識しうるような方法で使用したことがないとしても(前示甲第四十一号証によれば債権者は商標を一般的方法によつても使用していることが認められるが)、両者が類似であること前示判断の通りであり、債権者のこの類似標章「マルケイ」、の使用は、本件登録商標使用の一態様と解することができる。(けだし、登録商標の本質的効力は、その使用により商品の出所の混同誤認を防止し、混同のおそれある他人の商標の使用を排除する点に存るから、商標権者がこれと積極的に出所を指標する機能において同一性があり、類似の態様を有する商標を使用することは自己の登録商標の積極的な使用と解しうるからである。なお、商標法第十四条第一号但書参照。また、このように解しても、債務者は、債権者がこの商標の使用を始めた後、これを知つて、後記(四)の商標「マルケイターゼ」「マルケイホミツク」を債権者の商標ないし「マルケイ」と類似でないとして、出願、公告、登録を受けるにいたつたことは、本件認定事実と弁論の全趣旨に徴し、極めて明かであるから、後記の判断と相妨げる結果とはならない。)から、これをもつて前示判断を左右するに足りない。

(四)、更に、債務者は、薬剤を指定商品として「マルケイターゼ」及び「マルケイホミツク」なる登録商標権を有するところ、「マルケイ」、標章使用は、右登録商標権行使の範囲に属する、仮にこの標章が商標と類似であるとすれば、これはまた債務者の右登録商標とも類似であると考えられるから、債権者の登録商標の禁止権の効力は債務者の右標章使用には及ばないと主張する。債務者が「マルケイターゼ」、「マルケイホミツク」なる登録商標権(登録番号第四四一六三八号、第四四一六三九号、昭和二十八年六月二十三日出願、同年十二月十八日公告、昭和二十九年三月八日登録指定商品薬済)を有することは当事者間に争がない。しかして、「マルケイ」、標章の使用が登録商標「マルケイターゼ」、「マルケイホミツク」自体の使用でないことはいうまでもない。ところで、「マルケイ」、の標章が債権者の登録商標と類似であると同時に、債務者主張の如く、その登録商標「マルケイターゼ」、「マルケイホミツク」と類似であるとすれば(類似でない場合は、債権者の登録商標権の禁止的効力を受けるこというまでもない。)、右両登録商標権の類似標章に対する使用禁止的効力により、債権者債務者共に「マルケイ」、標章の使用を許されざるにいたるものと解すべく、逆に債権者債務者共にその使用が許されるものと解することは、前示商標本来の性質及び右禁止的効力が商標権者に類似商標使用の積極的権利あるによるものでないことに鑑みて、これを採り得ないこと明かである。従つて、債務者より債権者に対し、右類似標章を使用する権利ありと主張せんとする限り、これを認むるに由なきものというのほかはない。もつとも、債権者または債務者に相手方の登録商標と同一または類似する標章を使用するにつき、商標法第九条のいわゆる先用権が認められる場合等は、更にそれらの点より考察を加うべきこというまでもない。

(五) ところで、債務者は、本件商標の登録出願前、訴外国際製薬株式会社において「マルケイ」、の標章を善意に使用して医薬品の製造販売等の営業、業務をなしており、その標章は広く一般に認識せられていたところ、債務者会社は昭和二十三年十一月二日同訴外会社から、右営業、業務一切を承継し、同時に右標章の使用をも承継したと主張する。けれども、本件商標について登録出願がなされた昭和二十二年十月八日前より「マルケイ」、の標章が取引者または需要者の間に広く認識されており、かつ訴外国際製薬株式会社より債務者会社に対し右標章の使用がその営業または業務と共に適法に譲渡承継せられたとの事実は、これを認めしめるに足る明確な疎明がない。

(六) また、権利の濫用の主張については、本件に顕われたすべての疎明を綜合し、かつ債権者債務者間の紛争の経緯を考えても、にわかに、これを肯認することは困難というほかはない。

以上の通りであるから、債権者にその主張のような商標権あることを前提とし、その保全を求める本件仮処分申請は、結局被保全権利について一応その疎明あるものというを妨げなく、かつ保全の必要性については以上認定の事実及び弁論の全趣旨に徴しこれを認め得るのみならず、すでに債権者において保証を立てているので、理由があるからこれを認容すべく、これと同趣旨に出た主文第一項掲記の仮処分決定はこれを認可すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 荒木秀一)

目録第一

目録第二

一、  マルケイロートヂアス錠

二、  マルケイホミカロート錠

なる商標を使用したる錠剤薬品及びその類似商品並びに営業用の印刷物、薬壜、印鑑

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